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2021年2月5日

12635:慢性ライム病が眼瞼痙攣にも関連する?

清澤のコメント;私、清澤にも両者の関連はわかりませんが、「自身が慢性ライム病にかかっている」という病歴を持ち、「強い羞明」と「開瞼維持困難」とを訴えている一人の患者さんを継続的に診療しています。日本ではダニを介して広がるスピロヘータ感染症としては野兎病が有名でしたが、欧米ではライム病というものが論争の対象です。不安、抑うつ、不眠、頭痛、筋肉痛、視蒙など、さまざまな症状が報告され、慢性ライム病の概念が一部では提唱されています。しかし、学会誌での告示をみても、この論争の争点は解りにくいのです。この経緯が判る2013年の記事がありましたので今日はこれを抄出します。https://gendai.ismedia.jp/articles/-/37007?imp=0

混迷するライム病論争

 近年、日本でもマダニ媒介感染症が急速に認知されるようになってきました。『ニューヨーカー』に、そのマダニ媒介感染症の中でも「ライム病」と呼ばれるものをめぐって、近年アメリカ でちょっとした騒動が起こっているという記事がありました。ライム病は、マダニ媒介感染症の中では比較的歴史が長く、患者数が多いことも、騒ぎを大きくし ている一因なのかもしれません。

 しかし、おそらくライム病にかかわる最大の問題は、米国感染症学会が作成している診断と治療のガイドラインが、現実に即していないことのようです。 そのせいで、国民のあいだに、不安と不信、感情的対立が起こり、ライム病活動家が生まれ、さまざまな陰謀論を呼び込み、政府も医者もあてにならないということで、サプリメントや食事療法、電磁波療法といった代替医療の広がりにもつながっているようなのです。

 ライム病は、マダニが媒介する、ボレリア菌の一種(ボレリア・ブルグドルフエリBorrelia burgdorferi、ライム病スピロヘータとも言われる)によって引き起こされる病気です。この病気が特定されたのは1977年、場所はコネティカッ ト州ライム市だったため、ライム病と命名されました。それまではリウマチの一種と見られていたようです。その後1982年になって、NIHの昆虫学者ウィ リー・バーグドルファーが原因菌を特定し、発見者の名前にちなんで、病原菌にブルグドルフェリという名前が与えられました。

 米国疾病管理予防センターの統計によれば、2009年には、アメリカで三万八千件のライム病感染が報告され、1991年から、十八年間でざっと三倍 に膨れ上がっているそうです

 ライム病の感染地域も広がっています。もともとはニューイングランド諸州やニューヨーク州の風土病のような感じだったのが、今ではフロリダあたりまで患者が見つかっています。

 まず、米国感染症学会が作成している、診断と治療のためのガイドラインによれば、ライム病は命に関わるものではなく、インフルエンザによく似た初期 症状が現れ、マダニに噛まれたところに遊走性紅班がゆっくりと広がるが、かならずしも全員にこれが現れるわけではない。治療しないと病原菌 は、筋肉、関節、心臓、脳へと広がっていく。数週間の抗生物質投与で病原菌は消滅し、再発はまれである。

そうだとすれば、ライム病は、命に関わることもなく、診断も治療も簡単だし、すぐに治る病気のように見えます。治療しないうちに治っている人も多いだろう、という見方もあるようです。

 ところが現実はそれほど簡単ではありません。たとえば、『ニューヨーカー』誌の記事は、次のようなエピソードで始まっていました。

 2002年のこと、ニューヨーク州サラトガスプリングスに住む、十二歳の少女ケイリー・アハーンが、自宅でシャ ワーを浴びていたとき、肩にマダニがくっついていることに気がつきました。ケイリーはライム病のことを知っていたので、母親が駆けつけ、マダニを除去すると、娘を連れ、マダニを持って病院に向かいました。

 医者は、「赤い目玉斑が出て、風邪のような症状が出たら、もう一度娘さんを連れてきてください」と言ってそのままケイリーを帰宅させたのです。

 ケイリーはこれといった症状がないま ま、大学に進みます。しかし、大学の一年生の終わり頃になって、不安、抑うつ、不眠、焼け付くような頭痛、火に焼かれるような筋肉痛、頭が濃い霧に覆われ るような感じなど、さまざまな症状が襲ってきたのです。病院で検査したところ、ライム病との診断が下りました。

 診断がついたので、三週間にわたって抗生物質が投与されました。が、症状は良くなるどころか悪くなる一方で、最終的には十ヶ月近く治療を続けること になりました。しかし、それだけ治療を続けても症状が良くなったわけではなく、しかも三週間以上抗生物質を投与しても効果があるというエビデンスがないた め、保険会社はライム病に対する延長治療の費用をカバーしません。アハーン一 家は、この治療のためにかなりの経済的負担を強いられることになりました。

ケイリーはのたうちまわるような苦しみを味わい、大学も退学してしまいます。なんでもいいから、この苦しみをどうにかして……という気持ちで、ケイリーはライム病経験者や活動家から情報を得て、あれやこれやの代替医療を試してみました。そうこうするうちに、なにがどう効いたのか、あるいは単純にケイリーの体力が勝利したのかどうかもわかりませんが、症状は改善に向かい、大学にも復学することができました。今もときどき、激しい頭痛や筋肉痛の発作はあるものの、この春、ケイリーはめでたく大学を卒業することができたそうです。

 ケイリーのようなケースは珍しくなく、アメリカでは現在、二つの陣営に分かれてライム病論争が起こっています。一方の陣営は、もちろん、医療当局や ガイドラインに従う医師たち。他方の陣営は、当局も医者たちも、この病気のことをまるでわかっていないと考える患者や、ライム病活動家、政治家、「ライム 通」の医師たちからなります。

 たとえば、ライム病団体の一つである「ライム・アクション・ネットワーク」は、 『ライムかもしれない』と題するパンフレットを作り、「頭痛、関節 痛、肩こり、胸部痛、膀胱炎、皮膚の過敏、発熱、体重の減少、発汗、悪寒、疲労感、視野のぼやけ、心音に雑音が混じる、睡眠障害、集中力の低下、頭がふら ふらする、気分が激しく変化する…… 」といった症状を挙げて、「こうした症状を抱えたあなたは、ライム病かもしれません」と呼びかけています。ライム病団体は、こうした症状を示す慢性化したライム病、「慢性ライム病」というものが存在すると主張しているのです(それに対して、ガイドライン派は、慢性ライ ム病というものの存在を認めません)。

 このようなパンフレットや、ライム病の恐ろしさを訴えるドキュメンタリー番組を見たりすれ ば、自分の不調はライム病かもしれないと思い、「あなたはライム病です」と言ってくれるライム通の医者に巡り会うまで、医者から医者へと渡り歩く病院ジプ シーが出てくるのも不思議はないでしょう。

 そうはいっても、病原体を検出すれば、少なくとも診断はつくのでは? と思うかもしません。ところが、それがあまりうまくいっていないのです。

 まず、血液検査で抗体反応から診断するには数週間以上かかり、それだけ時間をかけても結果は不安定らしい。PCRで感染して いない人が陽性と出てしまうわけです。

 ライム病は命に関わる病気ではありませんが、ライム病の抗生物質治療はそうではありません。抗生物質投与により凝血が起こり、亡くなった人もいるの です。したがって、感染してもいない人が陽性と判断され、抗生物質をガンガン投与されるという事態は避けたいところです。その観点からすれば、三週間以上 抗生物質による治療はしない、というガイドラインにも一理あると思えます。

 それに加えて、抗生物質が本当に効くのか、というところからして問題です。スピロヘータは血中に長く滞在するわけではなく、軟骨付近やその他、抗生物質が届きに くいところに潜り込んでやり過ごすらしいのです。

 要するに、診断法も不安定なら、病原体の体内での振る舞いもわからず、治療法もわからないというわけです。さらに言えば、マダニが媒介する病気はラ イム病だけではありません。

 陰謀論まであることも含めて、驚くほどに混迷しているライム病論争ですが、しかし、やるべきことはわかっているとも言えます。マダニの生態、病原体 の生態、病気の性質、治療法といったさまざまな局面を、一つ一つ、科学的に明らかにしていくしかないのでしょう。気が遠くなるような話だと思われるかもし れませんが、結局は、それしかないんだと思います。

 日本ではあまり意識されていないようですが、マダニは、ハウスダストになったりする小さなダニとはかなり 性質が違います。英語では、大型で吸血するダニをtick、それ以外をmiteといって区別し、家畜に集って吸血する前者は大いに嫌われています。マダニ 媒介感染症も、tick-borne diseaseといいます。

 マダニは、人間やその他の動物にくっつくと、まず消炎効果や抗ヒスタミン効果のある物質を注入して、吸血される動物が痛みを感じにくくなるようにし ます。このため、ダニがくっついたことに気がつかないことが多いようです。マダニはその後、セメント状の物質を出して、吸血する動物に自分の体をがっちり 固定します。それから、おもむろに口器を動物の皮膚にねじ込み、吸血を始めます。吸血には一週間以上かかり、お腹がいっぱいになると離れます。

 これにより、二ミリ程度のゴマ粒のようなマダニが、血を吸って膨れ上がります。体重は百倍ぐらいに増えるそうです。

 ライム病スピロヘータが動物に注入されるまでには、最低でも三十六時間がかかると 言われ、それよりも早くマダニを除去すれば、感染の可能性は劇的に小さくなるそうです。

 登山中とかで、すぐに病院に駆け込むことができない場合は、ピンセットなどでできるだけ皮膚に近いところをつまみ、ゆっくりとまっすぐ上に引き抜く のが良いそうです。マダニ媒介感染症が見つかっている地域では、草原に寝転がってのんびりしたりするのも、残念ながら危険ですね。

 ライム病に関しては、森林が伐採されて農地など が作られ、その後、その地域が打ち捨てられて、森がふたたび広がってきたときがヤバイそうです。森が戻ってきたときに、マウスもまたマダ ニや病原体とともに、どどっと戻ってくるわけです。アメリカでは、ライム病はシカと結びつけて考えられることが多いらしいです。

 ライム病とエコロジーの関係については、次の本がコンパクトでよくまとまっているそうです。

『The New Yorker [US] July 1 2013 (単号)

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